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(掲載日:2017年6月26日)
今回の消費者契約法の改正では、判断能力が不十分であることにつけ込んで大量に商品を購入させたような場合(過量契約)、消費者はその契約を取り消すことができることになりました。
そこで、本稿では、この過量契約取消権の条項について解説するとともに、企業がとるべき対応策をお伝えします。
社会の高齢化に伴い、高齢者の消費者被害が多発しており、事業者が、認知症等を患った高齢者等の判断能力が不十分であることを利用して不必要な契約を締結させられる被害事例(いわゆる「つけ込み型」の勧誘)が多発しました。
しかし、改正前の消費者契約法ではこのような事例を対象とした規律はなく、公序良俗や不法行為等の一般的な規定による救済をするほかありませんでした。
そこで、新法では、加齢や認知症等により判断能力が不十分であることにつけ込んで大量に商品を購入させたような被害事案に対応するため、かかる契約の効力を否定する規程を設けることになりました(改正後の消費者契約法4条4項)。
(消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示の取消し)
第4条 (略)
2•3 (略)
4 消費者は、事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、物品、権利、役務その他の当該消費者契約の目的となるものの分量、回数又は期間(以下この項において「分量等」という。)が当該消費者にとっての通常の分量等(消費者契約の目的となるものの内容及び取引条件並びに事業者がその締結について勧誘をする際の消費者の生活の状況及びこれについての当該消費者の認識に照らして当該消費者契約の目的となるものの分量等として通常想定される分量等をいう。以下この項において同じ。)を著しく超えるものであることを知っていた場合において、その勧誘により当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは、これを取り消すことができる。事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、消費者が既に当該消費者契約の目的となるものと同種のものを目的とする消費者契約(以下この項において「同種契約」という。)を締結し、当該同種契約の目的となるものの分量等と当該消費者契約の目的となるものの分量等とを合算した分量等が当該消費者にとっての通常の分量等を著しく超えるものであることを知っていた場合において、その勧誘により当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときも、同様とする。
5•6 (略)
要件① | 企業(事業者)が勧誘の際に過量契約であることを知っていること(主観的要件) |
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過量契約であることを知っているとは、購買履歴などを保管している場合や、「独居である」などの消費者の生活状況を把握している場合に、当該消費者にとって明らかに過量な内容の消費者契約であることを知りながら、契約を締結することなどがそれに該当します。
過量契約の取消しは、合理的な判断をすることができない事情がある消費者につけ込んで契約締結を迫るという行為の悪質性に着目したものです。
そのため、企業(事業者)が消費者を勧誘する際、そもそも過量な内容の契約であることを知らなければ、事業者の行為に取り消しを認めるまでの悪質性はないといえます。なお、過量であるかどうかを判断するために、消費者の生活状況を調査する必要はありません。
要件② | 通常の分量を著しく超えた契約であること(過量性) |
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過量であるか否かは、
①消費者契約の目的となるものの内容
②取引条件
③事業者がその締結について勧誘する際の消費者の生活状況
④これについての当該消費者の認識
を総合的に考慮した上で、一般的・平均的な消費者を基準として、社会通念を基に規範的に判断するものとされています。
通常の分量か適量かどうかの判断は、一度に販売した商品の分量だけではなく、同じような種類の商品を繰り返して販売している場合(いわゆる「次々販売」)には、その合計した分量を基に判断します。
例えば、健康食品販売の事業者が、消費者に対して、摂取しきれないほどの大量の健康食品を販売した場合、当該事業者が当該消費者にとっての通常の分量等著しく超えるものであることを知りながら、勧誘をして販売したのであれば、取消が認められるということになります。
過量性が認められる範囲について、後記のとおり、特定商取引法と消費者契約法で文言が異なるため、厳密には過量の概念は異なると考えられますが、消費者庁審議官によれば、「結果的に過量性が認められる範囲に大差がない」とのことです(第190回国会衆議院消費者問題に関する特別委員会議事録第4号)。
なお、過量性の目安については、公益社団法人日本訪問販売協会の「「通常,過量にはあたらないと考えられる分量の目安」について」が参考になります(http://jdsa.or.jp/quantity-guideline/)。
要件③ | 企業(事業者)の勧誘と消費者の意思表示との間に因果関係があること |
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あくまでも事業者の勧誘と消費者の申込みないし承諾の意思表示との間に因果関係があることが必要ですので、何ら勧誘も受けずに立て続けに健康食品を注文したという場合はこれに該当しない点は注意が必要です。
例えば、消費者が自らレジに商品を持ってきた場合や、消費者が自ら注文した場合など、企業(事業者)が「勧誘」を行っていないため、過量契約には該当しないといえます。
特商法の過量販売 | 改正消費者契約法の取消規定 | ||
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規制対象の取引類型 | 訪問販売 電話勧誘販売(今回改正で追加) | 限定なし | |
要件 | 主観的要件 | 販売者が過量であることを認識していたことが必要。 但し、1回の取引で過量になる場合(特商法9条の2第1項1号)は販売者の主観的要件は不要 | 事業者が過量であることを認識していたことが必要 |
過量性 | 過量とは、契約の目的となるものの分量等が日常生活において通常必要とされる分量等を著しく超えること | 過量とは、契約の目的となるものの分量等が当該消費者にとっての通常の分量等を著しくこえること | |
効果 | 解除 | 取消し | |
権利行使期間と起算点 | 契約の締結のときから1年以内(除斥期間) | 追認することができる時から1年以内(短期時効)※今回の改正で1年となった 契約の締結の時から5年以内(長期時効) |
事業者が、一人暮らしの高齢者に対し、その生活状況を知りながら、店舗にて5組の布団を購入させた。
この事例では、改正後の消費者契約法4条4項に基づく取消しができるといえます。他方で、訪問販売や電話勧誘販売には該当しないため、特定商取引法に基づく契約解除はできません。
対応策①
営業社員や店舗での販売店員に対して、消費者契約法の概要や今回の改正点について教育、周知しておくことが大切です。
対応策②
過量契約の発生を未然に防止できるように社内規定や販売マニュアルなどの見直しを行うことも考えられます。
例えば、特定の消費者に対して一定期間内に販売できる数量や金額の上限を設定し、その数量や金額を超える場合は、購入履歴を確認したり、管理職などへの事前申請と承認を要するようにしたり、強引な勧誘がないがチェックするため商談の場に管理職の同行を義務付けたりするなどといった方策が考えられます。