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(掲載日:2017年6月20日)
消費者契約法では、事業者が契約の締結について勧誘をするに際し、重要事項について事実と異なることを告げ、消費者がその内容を事実であると誤認した結果、契約の申込み・承諾の意思表示をした場合は、消費者はその契約の申込み・承諾を取り消すことができるとされています。これを「不実告知による取消」といいます。
今回の法改正では、この不実告知による取消の要件である「重要事項」の範囲が拡大されました。そこで、今回はこの点について具体例をあげながら解説します。
改正前の消費者契約法では、不実告知による取消の要件である「重要事項」の対象は
①「物品、権利、役務その他の当該消費者契約の目的となるものの質、用途その他の内容」
又は②「消費者契約の目的となるものの対価その他の取引条件」
に関する事項であって、「消費者の当該消費者契約を締結するか否かについて判断に影響を及ぼすもの」とされていました。
シロアリに良く聞く駆除剤であると告げて、シロアリに全く効き目のない薬剤を販売した。
この例では、事業者は、薬剤という「物品」について、効能という「質」を偽っており、シロアリに良く効くかどうかは消費者が薬剤を購入するかの判断を左右するものであり、「消費者の当該消費者契約を締結するか否かについて判断に影響を及ぼすもの」であり、「重要事項」に該当します。
したがって、「重要事項」について客観的事実と異なることを告げているため、不実告知による取消しができます。
床下にシロアリがおり、このままでは家が倒壊するという虚偽の事実を告げて、リフォーム工事の契約を締結させた。
改正前の消費者契約法のもとでは、上記のように、不実告知における重要事項の対象が「消費者契約の目的となるもの」に関する事項に限定されていたことから、契約をするに至った動機などの契約の目的の前提となる事実は、「消費者契約の目的となるもの」に該当せず、これに関して事業者から不実告知があっても取消権の行使ができませんでした。
上記事例(2)についてみると、「床下にシロアリがいるか否か」は、リフォーム工事の契約を締結するに至った動機に関する事項(契約締結時に前提とした事項)であり、改正前の消費者契約法では「重要事項」には含まれませんでした。
もっとも、社会一般の消費者の感覚からして、上記のようなケースで取り消しができないとすることには疑問があります。そして実際に消費者契約の目的となるものの内容及び取引条件には当たらないが、契約締結時に前提とした事項についての不実告知を受けたことによって被害を被ったというケースが多く発生していました。
そこで、新法では、上記の①や②の重要事項に加えて、③「物品、権利、役務その他の当該消費者契約の目的となるものが、当該消費者の生命、身体、財産そのほかの重要な利益についての損害又は危険を回避するために通常必要であると判断される事情」もまた、「重要事項」に含まれる旨の規定が新設されました。
上記の事例(2)についてみると、床下にシロアリがいて、家の倒壊のおそれがあるという事情はリフォーム工事が自宅の滅失等の回避するために通常必要と判断される事情に当たることになります。
すなわち、床下にシロアリがいて家の倒壊のおそれがあるからこそ、消費者はリフォーム工事が必要と判断するのであり、その必要性は家の滅失等の回避という財産についての損害回避のためという観点に基づくものといえる。
したがって、上記事例でも事業者は、「重要事項」について客観的事実と異なることを告げているとして、不実告知による取消しができることになりました。
■不実告知による取消しに関する「重要事項」についての改正前後の比較
改正前の「重要事項」 | 改正後の「重要事項」 |
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① 物品、権利、役務その他の当該消費者契約の目的となるものの質、用途その他の内容であって、消費者の当該消費者契約を締結するか否かについて判断に影響を及ぼすもの | |
② 消費者契約の目的となるものの対価その他の取引条件であって、消費者の当該消費者契約を締結するか否かについて判断に影響を及ぼすもの | |
― 規定なし ― | ③ 消費者契約の目的となるものが、当該消費者の生命、身体、財産そのほかの重要な利益についての損害又は危険を回避するために通常必要であると判断される事情 |
(不実告知による取消しの要件)
・事業者が「勧誘をするに際し」、
・重要事項について事実と異なることを告げ、
・消費者が当該告げられた内容が事実であるとの誤認をした結果、契約の申込み・承諾の意思表示をしたこと
消費者契約法は、事業者が、勧誘をするに際し、「重要事項」について消費者にとって利益になることを告げるとともに不利益なことを故意に告げず、消費者がその事実が存在しないと誤認した結果契約の申込み・承諾の意思表示をしたとき、その申込み・承諾を取り消すことができる旨を定めていますが(不利益事実の不告知による取消し)、この取消しに関しては、「重要事項」の範囲は拡大されていません。
これは、契約締結の必要性に関する事項に関し、不利益事実の不告知により誤認したという被害が現時点では見当たらなかったためと言われています。