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Q. 従業員甲が債務の支払いを怠っていたらしく、甲の給料を差し押えるという「債権差押命令」が弊社に届いた。債権差押命令には『第三債務者は、差し押さえられた債権について、債務者に対し、弁済をしてはならない。』と記載されているが、債権差押命令には弊社に対してどのような効力があるのか?
また、債権差押命令と一緒に「陳述書」も届いたのだが、陳述書を記載して提出しなければならないのか?
陳述書の提出後は、どうなるのか?
A. 債権差押命令が会社(第三債務者)に送達されると,従業員甲(債務者)の給料のうち差押えの効力が及ぶ部分について従業員甲(債務者)に支払うことが禁止され,給料を全額従業員甲に支払ってしまうと,その後に差押債権者から取立てを受けた場合に,差押債権者にも支払わなければならなくなる。
また,「陳述書」については,これを提出する義務がある。
陳述書の提出後は,債権者に連絡を取るなどして,支払いの方法について協議することになる。
従業員を雇っている以上,このような問題はいつでも起こりえます。顧問弁護士の出番といえます。
「債権差押命令」が会社に送達されると,会社(第三債務者)は,従業員甲(債務者)への差押債権(給料債権)の弁済が禁止されます(民事執行法145条1項)。
債権差押命令の送達後に会社が従業員甲(債務者)に給料を支払ってしまった場合,会社はその支払い(弁済)を差押債権者に対抗することができず,差押債権者から取立てを受ければ,会社はこれに応じなければなりません(民法481条1項)。
もちろん,二重払いをした会社(第三債務者)は,従業員甲(債務者)に対し,二重払いした分を求償することができます(民法481条2項)。ただ,従業員甲が求償に応じようとしない場合もあり(差押えを受けるくらいですから,お金が無くて返せないということはありえます),その場合は面倒なことになりかねません。
ですので,債権差押命令が届いたら,給料の支払いには注意が必要です。
それでは,債権差押命令の効力は,給料債権のどの部分に及ぶのでしょうか。
給料債権(賞与等を含む)のような“継続的給付債権”に対する差押えの効力は,「差押債権者の債権及び執行費用の額を限度として,差押えの後に受けるべき給付にも及ぶ」とされています(民事執行法151条)。
つまり,将来発生する給料にも差押えの効力が及ぶので,差押債権及び執行費用の額になるまで,毎月の給料に差押えの効力が及んでいきます。
ただし,給料債権のように債務者らの生活につながるものについては,全額の差押えができるわけではありません。
民事執行法152条1項には,給料などの債権については,「その支払期に受けるべき給付の四分の三に相当する部分(その額が標準的な世帯の必要生計費を勘案して政令で定める額を超えるときは、政令で定める額に相当する部分)は、差し押さえてはならない。」と差押え禁止の範囲が定められています。
この場合の「支払期に受けるべき給付」は,給与債権の名目額から所得税,住民税,社会保険料,通勤手当を控除した手取額とするのが実務上確定した取扱いです。
おおまかに言えば,上記の手取額が月額44万円以下の場合は,そのうちの1/4まで差押えることができ(手取額が月額40万円なら10万円まで),上記手取額が月額44万円を超える場合は,手取額から33万円を控除した額まで差押えることができる(手取額が月額45万円なら12万円まで)とされています。
上記が原則なのですが,平成15年の民事執行法改正で,養育費のような扶養義務等の債権に基づく差押えにおいては,差押禁止の範囲が「二分の一」に狭められていますので注意が必要です(民事執行法152条3項)。
このため,扶養義務等債権が請求債権の場合は,上記の手取額が月額66万円以下の場合はその1/2まで(手取額が月額40万円なら20万円まで),手取額が66万円を超えるときは手取額から33万円を控除した額まで(手取額が月額67万円なら34万円まで)差押えることができるとされています。
なお,差押禁止の範囲の問題はやや複雑なので,弁護士にお問い合わせ頂いた方がいいでしょう。
そして,「陳述書」についてです。
第三債務者は,裁判所書記官から差押債権についての陳述の催告を受けたときは,陳述すべき義務を負い,故意または過失によって陳述をしなかったとき,または不実の陳述をしたときは,これによって生じた損害を賠償しなければなりません(民事執行法147条2項)。
陳述書に必要事項を記載して送付したら,差押債権者に連絡して支払いについて問い合わせるか,差押え債権者からの取立を待ちます。弁護士が代理人として差押えしていることも多いので,その場合は,代理人の弁護士に連絡して支払いについて問い合わせることになります。
なお,差押債権者は,債務者(従業員甲)に差押命令が送達された日から1週間が経過しないと第三債務者(会社)から取立てることができないので(民事執行法155条1項),差押債権者からすぐに連絡が来なくても焦る必要はありません(債務者=従業員甲が差押命令を受け取らないために債務者への送達が遅れることもあります)。
なお,第三債務者は,「権利供託」といって,差押債権の全額を供託して債務を免れることができ(民事執行法156条1項),差押えが競合した場合などには供託する義務があります(民事執行法156条2項)。権利供託については,いずれ稿を改めてご説明したいと思います。