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従業員兼務の取締役に関する問題(1)

1.はじめに

取締役を解任したり取締役が退任した後に、当該取締役が「自分は従業員兼務であった」と主張してくる場合があります。以下のような場合です。

  1. 取締役の解任は比較的解任事由が広く認められていますが、従業員(労働者)の解雇は要件が厳格です。そこで、自分は取締役だったけれども従業員を兼務していたのだとして、解雇無効(=従業員の地位確認)を主張する場合があります。
  2. 従業員には退職金が支給されるが取締役には退職金が支給されない場合に、従業員として退職金を請求する場合があります。従業員(=労働者)について退職金規程があれば従業員については退職金が支給されます。そこで、自分は従業員兼務だったと主張して、従業員分の退職金を請求するのです。

従業員が取締役に昇格した場合や取締役を中途採用した場合などに、その者を取締役として遇する手続を怠っている中小企業が散見されます。放置すると余計な紛争が生じうることになるので注意が必要です。
なお、取締役が従業員兼務であることを明確にし、従業員としての処遇もするのであれば、もちろん問題にはなりません。

2.従業員兼務といえるかの判断基準

取締役が従業員兼務だったかといえるかは、その者が「労働者」でもあったといえるか、すなわち、会社とその取締役が「使用従属関係」にあったかで判断されます。
取締役が従業員の地位も有しているか否かの判断基準については、次の判例(東京地裁平成10年2月2日判決)があります。

(判決要旨)
従業員性の有無については、使用従属関係の有無により判断されるが、具体的には、以下のような事情を総合考量して判断すべきである。

  1. 業務遂行上の指揮監督の有無(仕事の依頼、業務従事の指示等に対する諾否の自由の有無)
  2. 拘束性の有無(勤務場所及び勤務時間が指定され、管理されているか否か、人事考課、勤怠管理を受けているかどうか)
  3. 対価として会社から受領している金員の名目・内容及び額等が従業員のそれと同質か、それについての税務上の処理、
  4. 取締役としての地位(代表取締役・役付取締役か平取締役か)
  5. 具体的な担当職務(従業員のそれと同質か)
  6. その者の態度・待遇や他の従業員の意識
  7. 雇用保険等の適用対象かどうか
  8. 服務規律を適用されているか

 裁判例が実際に考慮した事情については、次回に検討します。

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